久保です。前回、FALL/WINTER 2026の中でも気に入っている一着について紹介しました。今回も別のアイテムについて誕生の経緯や、どんなところに「yoshiokuboらしさ」を詰め込んでいるのかを語っていきます。
2Dのデザイン画が3Dになるおもしろさ
どんなファッションデザイナーでもそうですが、服作りはデザイン画を描くことから始まります。デザイン画がどんなもんかというと、写真のようなもの。僕の場合は1シーズンあたり2〜300枚くらい描きます。
ちなみにこのデザイン画のメモの大きさは手のひらサイズ。これはNYC修行時代に出勤する地下鉄車内で毎朝描いていた時の名残です。

当然、平面なので、これだけ見ても「なるほど、この絵がこの服になるのか!」とわかるようなものではなく、これを元にパタンナーと呼ばれる職人さんと打ち合わせをして、具体的なイメージを共有し、服として現実世界に生み出していくことになります。
僕はNYCでロバート・デンスの下で修行をしていた頃はパタンナーをやっていたし、そもそもファッションデザイナーとしての学びを得たのは米国だったこともあってか、「久保さんのデザイン画とかパターンって外国のブランドっぽいですね」と言われることがいまだにあります。
特徴的なのは、前身頃と後ろ身頃だけでなく常に脇(サイド)を描いているところで、こんなふうに描いて作っていくブランドってそんなにないと聞いています。
脇(サイド)の表現については、絵だけでなく言葉でもアイディアを書き留めておいて、パタンナーに説明する時に活用します。誰かに自分の頭の中で描いたことを説明するためにもデザイン画は伝わりやすいものであることが結構重要。
「ここがこういうカーブになっていて」とか、「右の身頃はこういう流れでこれが裏に回って左身頃に向かってこう表現されていく」とか、「右の身頃と左の裏はこうで」とか、とにかく変化が多いのが僕の服の特徴なので、伝えるべき要素はかなり多めなのです。
具体的にどういう服になるのか~SEGMENT ARMOR BLOUSON~
今シーズンの中でも特に複雑で、「デザイン画がこれで、最終的にこんな服になるのか!」と思ってもらえそうなアイテムの代表格として一着挙げるとしたら、紹介したいのは「SEGMENT ARMOR BLOUSON」です。

軽い雨などをはじきながら内部の蒸れを外に逃がす撥水・透湿機能を実現するために表地・中間層・裏地の3層構造(3レイヤー)にしたり、袖に蛇腹折り(アコーディオン状に折り重ねた構造)を採用してスピンドルで袖丈や生地のたまり方を細かく調整できる可変性のある設計にしたり、裾にもスピンドルを配してシルエットのボリュームを自在にコントロールできるようにしたり、なかなか凝ったギミックに仕上がっています。
さらに粒度を細かくすると、このスピンドルの入り方、出し方、組み方、隠し方の妙は、それこそデザイン画では表現しきれないもの。そういうところも含めて、yoshiokuboのデザイン哲学なんかをみっちりと詰め込んでいます。
この服は細かく見ていけば見ていくほど面白くて、例えばファスナーのトップをわざと隠しているのですが、その背景には今シーズンのテーマに据えた「ランニング」から発展して、「スポーツシーンで着る服作りの作法、配慮の仕方」みたいな要素を取り入れたからです。
どういうことか、もうちょっと解説してみましょう。
yoshiokuboはこれまでスポーツブランドと何度もコラボレーションしてきましたが、その際にファスナーの重要性はよくよく学ばせてもらいました。
例えば、ポケットの口に配するファスナーは中に入れた物が落ちないようにするためというのが大前提にあるけれど、着ている人がいろんな動きをするのだから「ファスナートップが邪魔にならないように」とかそういった配慮の必要性が出てきます。
「SEGMENT ARMOR BLOUSON」ではそういったスポーツシーンの服ならではの服作りの作法を、ファスナートップをメッシュで隠したり、動きすぎないように収まるようデザインしたり、というところに反映させました。
いろんなブランドが「スポーツ(今シーズンのyoshiokuboならランニング)にインスピレーションを得て服を作る」と言いますが、僕はそれって、単にスポーティなデザインの服を作るのではなく、上述のようなスポーツシーンで身にまとう服作りのフィロソフィーをも取り込むってことなのだと思っています。
そして、さらにそれにモードさとかストリートファッションらしさみたいなデザイン性を持たせているのがyoshiokuboらしさなんじゃないか、と考えているところです。
その意味で、モードの視点で「SEGMENT ARMOR BLOUSON」を見てみると、サーフェイスについてはわざとこのネイビーとブラックで流線形の切り返しをしてみたり、同じトーンの生地が続く中にあえて「よく見たらチェック柄」みたいな異素材をコンビネーションさせて「微妙な違和感」を生み出して服の表情に奥行きを持たせたり…「一見したらすぐわかるっていうわけではないけど、なんか違うんだよなって近づいて見たらわかる」という、強烈に主張するわけではないけど確かな違いみたいなのが感じてもらえれば嬉しいですし、それが飽きずに長く着てもらえる要素になるのかな、と思います。
「実際どうなの?」と感じた方にはぜひ現物を手に取ってもらいたい、そんな一着です。
フロッキープリントだけじゃない! 見どころはココ
もう一着、LAUREL FLOCKシリーズについても紹介させてください。
マットなベースの生地とベルベットのような光沢のコントラストが面白い、オリジナルプリントのテキスタイルが目を惹くLAUREL FLOCKシリーズは、シャツ、ブルゾン、ビッグタックパンツを展開していますが、これもたくさんの方に注目してもらっています。
フロッキープリント自体もかなりコアな技法なのですが、ここで紹介したいのはボタンのこと!
例えば「LAUREL FLOCK L/S SHT」に付いているボタンは、あんまり気付く人はいないかもしれないけど、ボタンの中央部分にyoshiokuboのグラフィックを配している、実はちょっと珍しいものです。

ボタンにブランド名を配する場合、バリと呼ばれるボタンの外周やボタンの面のカーブに沿って入れるのが一般的ですが、yoshiokuboではわざと真ん中にドーンと横書きに書き込んでいます。
数年前からの仕様で、しかも半透明のボタンにすることで土台の生地が透けるからボタンが悪目立ちせずなじむようになっています。
こういう特徴的なボタンは一度に結構な量を作ることになるので、デザイナーというか、経営者として「これからも長く服作りを続ける」と意を決して作るパーツのひとつだと言えます。
こんな細かいところ、あんまり見られないかもしれないけど、もし「なんか他のブランドと違うな」と思っていてくれた方がいたとしたら、それってyoshiokuboらしさのひとつのエッセンスです、ということなのです。