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A Thousand Runningsと日常の服の話

久保です。
318日、渋谷ヒカリエでyoshiokubo Fall/Winter 2026 Collectionを発表しました。
当日の様子は公式YouTubeでアーカイブをご覧いただけるのでまだの方はぜひ!

ここでは、今コレクションの準備をしていた昨秋以降、上海やアメリカに行ったり来たりした中での話などを振り返っていきます。

yoshiokuboらしいデザイン~Sauconyとのプロダクト作りを通して思うこと

まずは上海の話。

現地ではいま、「Saucony(サッカニー)」というランニングブランドが注目されていて、厚底でクッション性の高いランニングシューズがめちゃめちゃ売れています。

今度ここと一緒にプロダクトを作ることになって、上海へはそのための出張でした。2026年中もあと何回か上海を訪れることになりそうです。

Saucony」はこれから日本展開も視野に入れているとのことで、僕と一緒に作るプロダクトはその一環という位置付けになるようです。

A Thousand Runnings--いろんな“走る”がある。さあ、外に出よう--)」をテーマとして、カプセルコレクション的に幻想的でスタイリッシュなものを作ろうとしています。どうぞご期待ください。

で、なぜ僕にこの「Saucony」とのコラボレーションの話がきたか? 

自分なりに考えてみたのですが、これが「自分のデザインの個性」みたいなものを見つめ直す機会になりました。

おそらく、「走るためのアパレルのデザインと、ライフスタイルアパレルのデザインの境界線ギリギリのところに存在する独自のデザイン」がその答えだろう、と。今回はそれを期待されているのだと考えています。

「走る」をインスピレーションに、非常識なパターンを!

Sauconyとのプロダクトについてデザインを進めていくうちに、だんだんランニングシューズに飽き足らず、「それならこんなのいいんじゃないか? あ、これも良さそう!」というアイディアがめちゃくちゃ思い浮かんでくるようになったのが、ここ最近の話。

インスピレーションは「走ること」だけど、そのインスピレーションの先にモードな服があったらおもろいなっていう発想がyoshiokuboFall/Winter 2026の服づくりの土台にもなりました。

一般的に「走る」という行為に適した服を作ろうとすると、生地そのものの性質や機能性、デザインも含めて「体から絶対に動かないでぴったりフィットしたものを」という条件が加わります。ピタッとしてないと動きの邪魔になってしまうし、鬱陶しいですからね。

そのことをコンセプトに含めて、あとは圧倒的に非常識なパターンを描いてみたというのが今コレクションの僕の楽しみのひとつです。

もう少し言うと、服作りには典型的なパターン(服の設計図)があるものですが、それを完全にやめて、まるで異世界の地図みたいなのを描き、それを縫い上げたらちゃんと服になります、っていう。一見するとそれが服になるとは思わないような線を全部縫い合わせたら服が出来上がる、というのをやってみたいと思っています。

これ、言葉で説明するとわかりづらいかもしれませんが、小学生の頃に算数の授業で見た「立方体の展開図」みたいなイメージですね。あれは折ったり糊付けしたりすると箱が出来上がりますが、今回の僕のパターンは服--それも、完全に普遍的で見た目は普通の服!--が出来上がる、ということです。

新しい服の楽しみ方ができてるんじゃないか、とワクワクしながら服づくりに向き合っているところ。

yoshiokuboFall/Winter 2026については、実際にみなさんに着てもらうのは今秋あたり。「Saucony」とのコラボレーションで作ったシューズも今後展開を予定しています。
ぜひ楽しみにしていてほしいです。

日常の中の●●か? ●●のための服か?

SauconyにしてもFall/Winter 2026yoshiokuboのコンセプトにしてもそうですが、「走ること」が主題になっているので、このところ「走る」をいろんな角度から知ろうと思い、資料を集めては読んだり見たりしていました。

そんな中ですごく心動かされたのが、『BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の走る民族"(著・クリストファー・マクドゥーガル)』という走る人のためのバイブルみたいな本です。

この本でフォーカスされているのは、メキシコの山岳地帯に住む少数民族タラウマラ族。びっくりするくらい長い距離を走破できるひと達で、ある日開催されたウルトラトレイルの大会で世界トップクラスのウルトラランナーたちを相手に突如現れたこのタラウマラ族の女性はみごとに勝ってしまうのです!

それ自体もすごい話なのですが、ファッションデザイナーとしては着ている服に注目してしまうもの。その大会で彼女が着ていたのは山岳民族の伝統的な服、つまり、トレイルに“適した”と言われるようなものでもない、彼女にとって普段着ているような普通の服だったんです!!

それを着てトップクラスのウルトラランナーに勝ち切ってしまうのだから、「うわ、すごいな! なんなんこの人!?」となりますよね!

しばらく感動に浸った後、結局のところ「走る」ってなったとき、僕に限らず多くの場合「走りやすい服を選んで着ること」を想像するけれど、それって「勘違いしてんな」と思ったんです。

「なんでもええんや、走る時の服なんて。だって、民族衣装で出場したタラウマラ族の女性は優勝してるんやから」というわけです。

もっと言うと、彼女らにとって「長距離を走る」ってことは日常の中の動作のひとつでしかないから、普通の服なのが当たり前で、逆に「走る」という場面でいちいち着替えるのなんておかしいと思うのかも知れません。

そういうふうに考えると、ファッションデザイナーとしてハラ落ちすることは色々あります。

例えば、Fall/Winter 2025のためにエベレストに行ったとき、「そういえばダウンジャケットの始まりってどういう流れだったのか?」と思って調べると、ダウンジャケットや防寒ジャケットは、現地で生活する人が「寒くて無理だ!」ということで、自分が重ね着している服と服の間や隙間に羊毛とか鳥の羽をギュウギュウ詰め込んだことから始まったとのこと。

で、「それいいね!」ということで、アメリカのブランドがおしゃれに着こなせるダウンジャケットとして発表したという経緯があったそうです。

これに限らず、服をデザインしていくとき、「いまある形になるまでの歴史やルーツ」を辿りたくなるのが僕らファッションデザイナーだと思うんです。

そして、「走ること」なんて日常の動作のひとつなのに「これが走る服」というイメージが定着しているいま、かたや海の向こうでは民族衣装(彼らの日常着)を着て僕らよりたくさんの移動距離を走ったりしている--

そんな中で「走る」をコンセプトに服作りをしていくことって、まさにモードだな、と思う今日この頃です。

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