25年秋冬コレクションの中でもひときわ異彩を放つ、「FEATHER」のシリーズ。
中綿入りのポリエステル生地とシアーなナイロン生地の間に羽根を挟み込み、さらに刺繍を施した特別な素材という希有な一着が持つストーリーをご紹介します。
プリントでは出せない奥行き
一目で「どう作っているのか分からない洋服」を目指し、生地開発から挑戦した今回のFEATHERシリーズ。
プリントでは表現できない奥行きや質感を求め、たどり着いた「透ける素材の中に羽根を挟み込む」という手法で生み出したこの素材は、羽根をキルト加工で固定することで、生地に複雑な表情を与え、特に着用時には中の羽根が自然に揺れ動く、唯一無二の表情を見せてくれます。
この生地にもまた、ブランドデビュー当時からの「オリジナル生地を扱う」という今なお追い続けるyoshiokuboのアイデンティティが息づいています。
試行錯誤の積み重ね
新しい生地づくりはいつだって困難なもの。特にアイディアを現実にする過程は難関で、社内でも数十回にも及ぶ試作を繰り返しました。
今回ひとつめのハードルとなったのは、不規則でありながら均一に見える羽根の散らし方や分量の“最適解”を見出すところ。
そしてもうひとつ、中に入れた羽根と透ける素材との重なり具合を調整する際にも、10種類ほど色の違う羽根とナイロン素材の色合わせを繰り返しては、「想像していた色味とのギャップ」に試行錯誤することになりました。
こうした経験は新たな気付きとなり、「生地作りの奥深さを改めて学ぶ機会にもなった」と、デザイナーの久保は語ります。
受け入れてくれる工場を探して
社内でサンプルが完成し、いざ生地として製作を依頼する段階も、「なかなか大変だった」と企画スタッフは振り返ります。
その理由は、そもそもキルトの間に何かを入れるという加工の仕方自体が珍しく、請け負ってくれる工場が見つからないからです。
そんな中、デザイナーの「作りたい!」を実現してくれた唯一の工場が、渡辺産業株式会社でした。
ランダムに羽根を置く、繊細な作業
生地の製作を担った同社の辻さんは、職人歴8年のキャリアを持つベテランのひとり。
そのお話からは、生地づくりの背景には職人の細やかな技術と途方もない手間の一端をうかがい知ることができました。
まず、羽根を生地と生地の間に入れていく工程は、一見単純に見えて、実はもっとも神経を使う部分だったとのこと。
一度に入れる羽根の枚数が偏らないよう、毎回ランダムに配置しなければならず、もし均一に見せようと意識しすぎると、不自然な表情になってしまう…。
その絶妙な「ランダムさ」を作り出すのは、経験と感覚がものを言う作業だったそうです。
また、カーキの生地に黒い色の羽根を挟む際には、作業中に色が手に付着して生地を汚すおそれがあったので、こまめに手を洗って色移りがないよう注意しながら進めていたとのこと。
細やかな配慮のもと、丁寧に生み出される生地は職人のこころが詰まっています。
「難しさ」と「やりがい」が同居する工程
「羽根をランダムに置くのが難しい」。辻さんが口にしたこの言葉には、シンプルだからこそ奥が深い作業の本質が表れています。
キルティング刺繍に羽根を入れること自体が初めての挑戦で、何人かの職人で試作を重ねる中で、辻さんが一番うまく羽根を配置できたことから担当に指名された、とも教えてくれました。
辻さんのコメント
「私は普段は中綿入り生地の刺繍をしているので、今回の作業はかなり勝手が違い、正直なところ戸惑うこともありました。が、やってみるとおもしろいチャレンジでした」
仕上がりを見たときの喜び
「やったことのない刺繍で不安もあったけれど、無事にできてよかった。仕上がりを見て、ほっとしました」
そう語る職人の言葉からは、ものづくりの現場特有の緊張感と、それを乗り越えたときの達成感が伝わってきます。
完成したアイテムは、まるで工芸品のような存在感を放ち、着る人の個性を際立たせます。
一着に込められた時間と手間
刺繍機による縫製の際、大量生産に適した工業用刺繍機を使用することが一般的で、通常、渡辺産業株式会社のような原反刺繍*の工場では、1人で2台の機械を同時に扱うことが多いそうです。
しかし、この生地の制作に関しては、「羽根を挟む→機械を動かす→羽根を挟む」という通常とは異なる方法で生地を仕上げる必要があるため、1人が1台を集中して担当していたとのこと。
こういった点からも、「FEATHER」シリーズがまさに職人の手仕事の賜物だ、ということが伝わるはず--。
*原反刺繍とは・・・まだ加工をしていないベースとなる反物に刺繍を施して唯一無二の生地にしていく加工のこと。
「特別」である理由
「FEATHER」シリーズのためのオリジナル生地は、決して大量生産では生み出せないもの。そこには、辻さんをはじめ渡辺産業株式会社の職人たちの手間も技術も惜しまず、細部にまでこだわり抜く真摯な姿勢と情熱が詰まっています。
そうして縫製工場を経て“服”として仕立て上げられたyoshiokuboの一着だからこそ、唯一無二の表情を持つ、というわけです。
だからこそこのアイテムは、ただの洋服という枠を超え、まとう人のファッションを豊かにし、人生を彩る「作品」になるはず。
この生地はもちろん、yoshiokuboがブランド設立当初から一貫してオリジナル生地にこだわり続ける姿勢の背景には、デザイナー自身が直接ものづくりに関わり、試行錯誤を重ねながら創り上げていくプロセスがあります。
「デザイナーの目が届く範囲」だからこそ、熱量高く、唯一無二の生地と洋服を生み出すことができる――。
それこそが、このシリーズが“特別”である最大の理由なのです。
ぜひ、こうしたストーリーも合わせて手に取って、服をおもしろがっていただけたら嬉しいです。